Chapter 2 定点観測まとめ
町田市議会は、2022年3月定例会から 2022年12月定例会までに 174の議案を議決しました。この 174の議案に対する表決行動に基づいて、市議会議員相互の類似性と相違性を、マッピングによって可視化します。そして、町田市議会が5つのクラスタで構成されていることを示します。
マッピングに用いる座標軸と座標は、多重対応分析により決定します。また、座標軸の決定に寄与が大きい議案を抽出し、会議録に記された討論から、座標軸が持つ意味を解釈します。
2.1 3つの座標軸で捉える
表決行動に基づいて、各議員を3D空間にマッピングした結果を図に示します。各議員の表決行動は、プロットの座標に反映されます。多重対応分析を用いると、表決行動が似ている議員は、互いに近い位置にプロットされ、表決行動が異なる議員ほど、互いに遠い位置にプロットされます。例えば、濃い緑色と水色のプロット群は表決行動が似ているため、互いに近い位置にプロットされます。一方、赤色のプロット群、濃い青色のプロット群、そして明るい緑色のプロット群は表決行動が異なるため、互いに遠い位置にプロットされます。
マウスを使って、カーソルをプロットに近づけてみてください。議員名と座標が表示されます。また、図はマウスを使って回転、ホイールを使って拡大・縮小できます。さまざまな角度から、眺めてみましょう。
この3次元の空間には、議員の表決行動の違いが圧縮されています。軸Dim.1は表決行動の56%を、軸Dim.2は14.5%を、軸Dim.3は8%を表現しており、この空間全体で表決行動の78.5%を表現しています。 また、この3次元の原点は町田市議会の重心を表します。重心は多数派の近くに位置します。
なお、表決行動を「賛成」「反対」「その他」の3つに区分しました。「その他」は欠席および退席を含みます。また、議長を務める戸塚正人については、表決の数が著しく少ないため、外れ値として扱いました。
2つの濃い緑色のプロット群は互いに近い位置にいます。また、水色のプロット群は、濃い緑色のプロット群の近い位置にいます。濃い緑色のプロット群の一方は自民党会派(5人のうち5人のデータラベルが重なっています)を表し、他方は選ばれる町田をつくる会(5人のうち3人のデータラベルが重なっています)の議員を表します。水色のプロット群は、公明党会派(6人のうち6人のデータラベルが重なっています)の議員を表します。この3つの会派の表決行動は似ていることがわかります。
赤色のプロット群は、濃い緑色と水色のプロット群から最も遠く離れた位置にいます。赤色のプロット群は、共産党会派(4人のうち4人のデータラベルが重なっています)の議員を表します。赤色のプロット群は、座標軸Dim.1の方向に離れています。このことから、座標軸Dim.1は赤色のプロット群の表決行動の特徴を強く反映した座標軸であることがわかります。
濃い青色のプロット群は、濃い緑色と水色のプロット群から座標軸Dim.2の方向に離れた位置にいます。濃い青色のプロット群は、まちだ市民クラブ会派の議員を表します。また、座標軸Dim.2は濃い青色のプロット群の表決行動の特徴を反映した座標軸であることがわかります。
明るい緑色のプロット群は広く分布しており、概略3つのグループに分けることができます。第1のグループは、自民党会派と重なる熊沢あやりと、公明党会派と近い中川幸太郎のグループになります。第2のグループは、座標軸Dim.1と座標軸Dim.2とで形成される平面から、座標軸Dim.3方向に離れた位置にいる吉田つとむ、松岡みゆき、新井よしなおのグループになります。そして、第3のグループは、濃い緑色のプロット群と、青色のプロット群の間に位置するおぜき重太郎と、矢口まゆのグループになります。なお、明るい緑色のプロット群は、諸派および無所属の議員を表しています。
表決行動に基づいて各議員をマッピングした結果から、町田市議会は、5つのクラスタに分けることができそうです。第1のクラスタは、自民党会派、選ばれる町田をつくる会、公明党会派、無所属の熊沢あやり、および諸派の中川幸太郎によって形成されています。第2のクラスタは、まちだ市民クラブによって形成されています。第3のクラスタは、共産党会派によって形成されています。第4のクラスタは、無所属の松岡みゆき、新井よしなお、吉田つとむによって形成されています。そして、第5のクラスタは、諸派の矢口まゆと、おぜき重太郎によって形成されています。
2.2 2つの座標軸で捉える
3D空間に可視化された議員の類似性と相違性を踏まえ、次は2次元の平面を切り出して、詳細に検討してみましょう。
2.2.1 座標軸Dim.1と座標軸Dim.2で捉えた議員の類似性と相違性
まず、座標軸Dim.1と座標軸Dim.2で表される平面を切り出して図に示します。暖色系の色でプロットされた議員は、この平面に比較的近い位置にいます。一方、寒色系の色でプロットされた議員は、この平面から離れた位置(例えば、座標軸Dim.3方向に離れた位置)にいます。つまり、寒色系の色でプロットされる議員の表決行動は、座標軸Dim.1と座標軸Dim.2に現れる特徴とは別の特徴の特徴を備えていることを意味します。
座標軸Dim.1に着目すると、−0.3から−0.25の範囲に、自民党会派、選ばれる町田をつくる会、公明党会派等がプロットされ、−0.1から+0.1の範囲に、まちだ市民クラブ会派、諸派等がプロットされます。そして、+1.29に共産党会派がプロットされます。
座標軸Dim.2に着目すると、-0.37から-0.32の範囲にまちだ市民クラブがプロットされ、-0.37から-0.16の広い範囲に諸派と無所属がプロットされます。また、+0.12から+0.24の範囲に、自民党会派、選ばれる町田をつくる会、公明党会派および共産党会派がプロットされます。
なお、諸派と無所属のプロットは寒色系の色でプロットされており、座標軸Dim.1と座標軸Dim.2で表される平面から離れています。諸派と無所属は、自民党会派・選ばれる町田をつくる会・公明党会派等と、まちだ市民クラブの間を埋めながら、また別の特徴を備えています。
なお、座標軸Dim.1および座標軸Dim.2のそれぞれが持つ意味ついては、次のセクションで触れることにします。
2.2.2 座標軸Dim.1と座標軸Dim.3で捉えた議員の類似性と相違性
次に、座標軸Dim.1と座標軸Dim.3で表される平面を切り出します。先程と同様に、暖色系の色でプロットされた議員は、この平面に比較的近い位置にいます。また、寒色系の色でプロットされた議員は、この平面から離れた位置(例えば、座標軸Dim.2方向に離れた位置)にいます。つまり、寒色系の色でプロットされる議員の表決行動は、座標軸Dim.1と座標軸Dim.3に現れる特徴とは別の特徴の特徴を備えていることを意味します。
座標軸Dim.3に着目すると、-0.26から-0.1の範囲に、まちだ市民クラブがプロットされ、-0.02から+0.09の範囲に、自民党会派、選ばれる町田をつくる会、公明党会派、諸派および共産党会派がプロットされます。また、+0.47から+0.58の範囲に、無所属がプロットされます。
2.2.3 座標軸Dim.2と座標軸Dim.3で捉えた議員の類似性と相違性
次に、座標軸Dim.2と座標軸Dim.3で表される平面を切り出します。先程と同様に、暖色系の色でプロットされた議員は、この平面に比較的近い位置にいます。また、寒色系の色でプロットされた議員は、この平面から離れた位置(例えば、座標軸Dim.1方向に離れた位置)にいます。つまり、寒色系の色でプロットされる議員の表決行動は、座標軸Dim.2と座標軸Dim.3に現れる特徴とは別の特徴の特徴を備えていることを意味します。
ここまで、議員の類似性と相違性を可視化した3D空間から、3つの平面を切り出して、表決行動に現れた議員の特徴を検討しました。しかし、例えば、諸派の矢口まゆと、おぜき重太郎のように、3つのどの平面においても、寒色系の色でプロットされる議員もいることがわかりました。これは、3つの座標軸だけでは十分に表せない表決行動をとる議員がいることを意味します。言い換えると、座標軸Dim.1、座標軸Dim.2、座標軸Dim.3に現れる特徴とは別の特徴を見逃すおそれがあります。
2.3 3つの座標軸に圧縮する妥当性
多重対応分析で得たスクリープロットを次に示します。この図は、上位3つの座標軸Dim.1(56%)、座標軸Dim.2(14.5%)および座標軸Dim.3(8%)を用いれば、議員の表決行動に基づく町田市議会の特徴の78.5%を表せることを示しています。さらに、座標軸Dim.4(5.2%)および座標軸Dim.5(3%)を加えた上位5つの座標軸を用いれば、町田市議会の特徴の86.7%を表せることを示しています。
3つの座標軸に圧縮した空間に各議員をマッピングした結果から、町田市議会を5つのクラスタに分けました。そこで、更に、5つの座標軸を使って、各議員の表決行動を、5つのクラスタごとにレーダーチャートを用いて比較してみました。その結果、3つの座標軸を使って分けた各クラスタにおいて、それぞれを構成する議員は、5つの座標軸についても、互いに似た表決行動をとっていることが確認できました。
2.3.1 第1のクラスタ
レーダーチャート上に、各座標軸の原点(ゼロ)に頂点を有する正多角形が破線で描かれています。この正多角形は3つの座標軸に圧縮した3D空間の原点に相当します。原点は町田市議会の「重心」に相当し、「重心」は多数派の表決行動の影響を強く受けるため、多数派と似た表決行動をとる議員は「重心」に近い位置に頂点を持つ多角形で描かれます。
はじめに、自民党会派、選ばれる町田をつくる会、公明党会派、無所属の熊沢あやり、および諸派の中川幸太郎が構成する第1のクラスタのレーダーチャートを示します。
第1のクラスタが描く多角形は、座標軸Dim.1の頂点を重心より内側に有しており、座標軸Dim.2の頂点を重心より外側に有しています。なお、いわせ和子は、座標軸Dim.5において、他の議員から離れた位置にいます。これは、請願第11号の審議において、戸塚に変わって議長を務めた結果、表決行動が他の議員と異なると評価されたと考えられます。
2.3.2 第2のクラスタ
次に、まちだ市民クラブが構成する第2のクラスタのレーダーチャートを示します。第2のクラスタが描く多角形は、座標軸Dim.2の頂点と、座標軸Dim.3の頂点を重心より内側に有しています。
2.3.3 第3のクラスタ
次に、共産党会派が構成する第3のクラスタのレーダーチャートを示します。第3のクラスタが描く多角形は、座標軸Dim.1の頂点を重心より大きく外側に有しています。また、座標軸Dim.2の頂点も重心より外側に有しています。
2.4 それぞれの座標軸が持つ意味
座標軸は多重対応分析が数学的に作り出したものであり、事前になんらかの意味づけがされたものではありません。解釈により事後的に意味づけする必要があります。
座標軸は、その座標軸の決定に寄与した表決によって意味づけられます。それぞれの表決の座標軸に対する寄与の大きさを算出し、寄与が大きい表決を抽出してみました。
また、別途、町田市議会の会議録から、その議案の審議で行われた討論を抽出し、討論を寄与が大きい表決に紐づけます。こうすることで、討論の論点を、座標軸が持つ意味の解釈に使うことができます。
座標軸の決定に寄与が大きい議案の表決を表にして以下に示します。それぞれの座標軸について、その座標軸の決定に寄与が大きいものから順番に並んでいます。左から議案番号、議案名および表決が並んでいます。Dim.1、Dim.2およびDim.3の値は、その座標軸の決定に対する寄与の大きさを表しています。 そして、その議案の審議で討論があった場合、その討論を行った議員名を関連討論の列に記し、会議録の該当する討論にハイパーリンクを貼りました。リンクを辿って会議録を確認すれば、討論とその論点を知ることができます。
なお、座標軸の決定に寄与が大きい議案の表決は市議会の最終的な議決と一致するわけではありません。少数の集団の特徴的な表決行動が軸を特徴づける場合があります。市議会の最終的な議決は、議案番号に貼られたハイパーリンクを辿って、議案集でご確認ください。また、市議会のホームページでもご確認いただくことができます。
2.4.1 座標軸Dim.1が持つ意味
座標軸Dim1.の決定についての寄与が大きい表決を、寄与が大きい順番に表にして示します。なお、便宜上、座標軸Dim1.の決定についての寄与の値が0.1より大きく、他の座標軸の決定についての寄与の値と比較して、2倍を超える表決を、寄与が大きい表決とします。
他の座標軸と比較して、市長提出議案に対する表決の違いが高い割合を占めています。座標軸Dim.1は、市長提出議案の一面を評価する軸になっているようです。
2.4.2 座標軸Dim.2が持つ意味
座標軸Dim2.の決定についての寄与が大きい表決を、寄与が大きい順番に表にして示します。なお、便宜上、座標軸Dim2.の決定についての寄与の値が0.1より大きく、他の座標軸の決定についての寄与の値と比較して、2倍を超える表決を、寄与が大きい表決とします。
他の座標軸と比較して、議員提出議案に対する表決が高い割合を占めています。座標軸Dim.2は、議員提出議案の一面を評価する軸になっているようです。
2.4.3 座標軸Dim.3が持つ意味
座標軸Dim3.の決定についての寄与が大きい表決を、寄与が大きい順番に表にして示します。なお、便宜上、座標軸Dim3.の決定についての寄与の値が0.1より大きく、他の座標軸の決定についての寄与の値と比較して、2倍を超える表決を、寄与が大きい表決とします。
小学校の統廃合、国際工芸美術館整備費予算、都市計画税の軽減税率に関する表決が高い割合を占めています。座標軸Dim.3は、これらの施策の一面を評価する軸になっているようです。